新しい職場での仕事にも慣れ、
2年も経ったころでしょうか。
大変なことがありながらも、充実した日々を過ごしていたぼくでしたが、
ある突然、きびしい現実を突きつけられることになったのです。
もう十分…なはずだったけど?
ぼくは、看護師を目指すようになるまで、
他のスタッフの給料など
全く考えたことがありませんでした。
それが、訪問入浴の仕事をしていたある日、
たまたま見た求人広告で、
自分と看護師の給料を比べてしまい、
自分も看護師になれば安泰だ!と思って看護師になりました。
そして無事看護師になれたので、
もう自分としては良くやった、金銭的にも十分だと思っていたのです。
物欲もほとんどないぼくは、
一人暮らしをしていて、特に不自由も感じなかっため
他のスタッフの給料がどうだとか、本当にどうでもよい話だったのです。
しかしあるとき、
たまたま他のスタッフの年収について知る機会があり
あまりの衝撃に、現実を目の当たりにしたのです。
給料は看護師としての経験年数で決まる、という仕組みは知っており、
同世代でも、じぶんより高い給料をもらっている、ということも分かってはいたのですが…
同世代よりはるかに少なかった自分の給料
ある日、
同世代の看護師と給料の話題になりました。
するとその時、その同世代の同僚が
「〇さん(ベテラン)、年収○○○○万(8ケタ)超えてるらしいっすよ。
ぼくらは●●●万どまりなのに…」
と、これを聞いてぼくは
「え…?そんなもらってんの!?」
と、飛び上がりながら叫んでしまいました。
そこで、勢いでその同僚に
「ちなみに、同僚さんはどのくらいなんです?」
と、聞いてみました。
すると…
22歳から現役で看護師をしているその同僚の年収は、
ぼくより1つ年下でしたが、
なんと自分より
150万円以上も多かったのです。
これを知り、ぼくは愕然としました。
それまで考えたこともなかったのですが、同じ職場にいる、
自分よりだいぶ年下のスタッフも
(計算すると)このくらいもらってるのか…とか
その同世代に一生追いつけないのか…
同世代なのに…
ましてや年下より少ない…
しまいには、なんとなく自分が、他のスタッフから哀れまれているというか、
まるで
「かわいそうに。看護師になったのが遅かったから、定年退職まで少ない給料のままね」
とでも言われているかのように、思えてきてしまいました。
経験年数が少ないがために、
だいぶ年齢が下のスタッフにも、何となくバカにされているような
そんな気持ちになっていってしまったんです。
どれだけいい仕事をしても、どれだけ職場を盛り上げても。
給料は変わらないのです。
そして、給与体系が明確なだけに、
誰もがお互いの、おおよそ年収をはかり知ることができたのです。
(シフト表なんかも、経験年数長い順、つまりほぼ給料高い順に名前が並んでましたし)
もちろんぼくはずっと一番下でした。
これ以降、ぼくは常に自分を値踏みされているような気持ちになり、
強い劣等感に押しつぶされそうになりました。
本当は、
要領が悪くて、怒られてばかりだった自分が、
こうして悠々と働けるようになれて、
なおかつある程度、安定した収入を得ることができて、
人間関係のストレスも少なくて。
これで十分だったはずなんです。
収入としても、ほんとうに十分だったんです。
むしろ、
当時のぼくの要領の悪さ、仕事のできなさを思うと、
自分の実力以上にお金をもらってしまっている…
とすら思っていました。
ですが、人間とは恐ろしいもので、
一度手にしたものは、
時と共に「あって当たり前のもの」になっていくんですね。
そうして、そういうありがたさを忘れて、
他のスタッフから、可哀そうに思われているような情けなさというか。
変にプライドのようなものに囚われてしまい。
今にしてみれば、
自分が勝手にそう感じて、勝手に劣等感を抱いていただけに過ぎないのですが。
当時のぼくにとっては、
目の前が急に真っ暗になった出来事でした。
そして、
その劣等感に、さらに追い打ちをかける情報が耳に入ってきてしまいました。
この時ぼくはこう思っていたんです。
ベテランの先輩が8桁の年収を手にしているのであれば、
自分の収入も30年後にはそれに少しは近づくのかな?
…答えはNOでした。
ベテラン看護師の給料は、
一時代前の給与体系のものであり、すでに給与体系は変わっていたのです。
いろいろ調べてみると、ぼくの年収は一番よくても○○〇万円までにしか届かない、ということが分かったのです。
(ベテランの半分ほどしか届かない)
それどころか、
今後も給与体系が変更される可能性も高かったのです。
財政の状況から言って、現状より優遇されることはほぼあり得ないので、
結論、ほぼ頭打ちだということがわかりました。
この時、非常にショックを受けたのと同時に、
人と比べてしまう自分のコンプレックスにも気づきました。
以降、ぼくは仕事に対してメッキリやる気を失ってしまいました。
看護師という資格にかかる「維持費」
もちろん、
周囲の先輩にはかなり良くしてもらいましたし
大変なことも多いですが、
今までの仕事で感じたこともなかったような、
やりがいや充実感を感じながら仕事をさせてもらってました。
でも、これからどんどん責任も増していく中で、
給料もあまり増えそうにもない。
なにより、看護師という職業上、
専門職として常に勉強し続けていかねばならないのですが、
いかんせんお金がかかるんです。
月に1~2度は、実費にて外部研修を受けに行ったり、参考書やテキスト、その他にも多くの書籍を購入します。
すべて仕事に必要なものですが、ひと月に数万円かかる時もあり、
思った以上に出費がかさむことにもこの時になって気づきました。
どうにかして、少しでも
お金を増やす方法はないだろうか…
ぼくは考えこみました。
しかし、いくら考えても
お金を増やす方法といえば、
バスに乗らずに歩いてバス代を浮かすとか、
水筒を持っていくなど、
いわゆる「節約」くらいしか思いつきませんでした。
もう、今のままで十分じゃないか…
そう自分に言い聞かせようとするも、なかなか自分を納得させることはできませんでした。
ぼくの人生はこのまま終わってしまうのか…!?
その日の仕事を終え、とぼとぼとバス停に向かっていると、
夕焼け空がスーッと灰色にそまり始め、
ポタ、ポタ、ポタ…
ザザーッ!!
なんと急なにわか雨。
「げ…まじかよ、バス停までまだ10分あるのに~」
その時、
「ズゴゴーン!!」
漆黒の空に鳴り響く雷鳴。
と同時に、ぼくはこの苦境を打破する
妙案をひらめいたのです。
「まだ…この手があったっ!!」
【第9章へ続く】
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